ワクチンと副反応について

1年前、新型コロナウイルスに対するワクチンのことを書かせていただきました。その後日本において成人を中心に広くワクチン接種が進められ、この記事を書いている時点で、のべ2億2千万回、実人数で約1億人が2回の接種を終了しています。発熱や接種部位の腫れや痛みといった副反応はしばしばみられ、ごくまれにアナフィラキシーや心筋炎といった重い副反応も報告されていますが、副反応が原因で亡くなったとされている方は報告されていません。まだ一度も打ったことがない方や3回目の接種を迷っている方もおられると思いますが、効果も安全性も高いと考えられますので、接種していただくことをお勧めします。

そして、当院では小児科がありませんので行う予定はありませんが、5歳から11歳の子どもを対象とした新型コロナワクチン接種も開始されました。小児へのワクチン接種については、成人とは異なる副反応を心配されている方もいると思います。子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)のことを思いだす人も多いでしょう。

子宮頸がんはHPVというウイルスに感染することが原因で発症しますが、ワクチンによって感染を予防することができます。そこで、2013年4月にHPVワクチンが定期接種化されました。ところが、接種後に慢性の疼痛やけいれんなどの多様な症状を訴える方が相次ぎ、2か月後の6月に積極的勧奨が差し控えられたのです。しかし、その後10年間の調査で慢性の疼痛やけいれんなどの多様な症状はHPVワクチンを接種していない思春期の女性にもしばしばみられ、その出現頻度は、ワクチン接種した人と同程度であることが解ってきました。つまり、これらの症状はHPVワクチンの副反応ではない可能性が高いのです。「機能性身体症状」であるとする意見が有力です。「機能性身体症候群」は「症状の訴えや、傷つき、障害の程度が、確認できる組織障害の程度に比して大きいという特徴を持つ症候群」と定義され、身体症状ははっきりしているものの、検査で異常がはっきりしない一連の病気を指します。当院で行っている心療内科の対象疾患にもなります。

その結果を受け、2021年11月、厚生労働省は積極的勧奨を再開することを決定しました。しかし、マスコミのHPVワクチンへのネガティブキャンペーンも相まって、積極的勧奨が差し控えられた10年間において接種率は1%以下に低下してしまいました。現在、日本国内において子宮頸がんは年間1万人が罹患し 約2,900人が死亡しています。過去にHPVワクチンを接種していればこれらの方の大部分が助かったと考えられます。つまり、この10年間でのHPVワクチン接種率低下は、今後予防できたはずの10万人の子宮頸がん患者と29,000人の死者を出してしまう可能性があるのです。

このような過ちを繰り返してしまうことは許されません。しかし、すでに新型コロナワクチンを接種した後に、慢性の疼痛やけいれんなどの多様な症状が出現した人に対して、十分な検査も行わずに「ワクチンの副反応だ。」と断定する医師やそれをセンセーショナルに報じる一部マスコミも見受けられます。確かに、ワクチンを接種した後体調不良になり、病院を受診して「原因がはっきりしないのでじっくり調べてみましょう。」と言われモヤモヤするよりも、話を聞いてもらいその場で「ワクチンの副反応です。」と断定される方がスッキリしますし、その医師を信頼してしまう気持ちはよく解ります。しかし、それはワクチンの副反応以外の可能性を排除してしまい、結果的に間違った治療を選択する可能性があり大変危険です。

ワクチンを接種した後に身体の不調を来した場合、「副反応だ。」と決めつけるのではなく、接種した医師やかかりつけ医に相談して原因を慎重に調べることが重要と考えます。

<四季報2022年4月号掲載>

理事長 岡田 純