四季報そよかぜ 2017年5月号

そよかぜ

心療内科 土井麻里医長 連載 第5回「問題を解決する方法」

美しかった桜が散るころ、冬の間葉っぱのなかったイチョウの木に、いつの間にかたくさんの若葉がでていました。イチョウの変化に気づいていなかったけれど、自然は命の営みを常におこなっているのですね。自然の変化を見るたびに、物事は常に変化し続けている、どんな出来事も、感情も、思いも、変化していく、そのことを痛感いたします。けれども、苦しい時は、これがずっと続くのではないかと思い、余計に苦しくなってしまうこともありますよね。そういった時の対処について、私が仕事で活用しているシンプルな方法を、今回はお伝えしたいと思います。

私は、心療内科の診療で、いろいろなご相談をお受けしています。個々のご相談内容は異なりますが、ご相談の中に共通してみられる一つの傾向があります。それは、困っておられる方が、起きている状況に圧倒されて冷静に見ることが困難になり、思い込みにもとづいて結論を出し、とった行動が奏功せず、大なり小なり混乱されている点です。このような時は、往々にして、問題の整理の仕方が機能的でないために、解決につながらない結果になっています。

どんな問題でも、大体は、
①現実に対処すべきこと
②変えられない事実
③気持ちの持ち方が大きく影響している
の3つの要素に分けることができます。ですから、はじめに、状況を詳しく聞いて、これら3つのどれに該当するかを判断し、問題の整理を始めるものです。

①に該当するのは、例えば、何か対処をしないといけないもののうまく考えられない、AとBのどちらかを選択し行動必要があるにもかかわらず、感情に振り回されてうまく考えられない場合などです。この場合には、状況をよく観察した上で、落ち着いて、可能な限りの選択肢を上げ、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを検討したり、ゴールを設定し、ゴールに到達するために必要なプロセスをスモールチップに小分けにするなど、問題についての効果的で、具体的な行動を検討していきます。

②は、天災、事故、死など自分では変えられない出来事のことです。この場合は、起きた出来事を、感情的な解釈を加えず、事実としてただ受け入れること、そして、原因探しや悪者探しをしないことが必要です。私も、過去にこれに相当するある経験をしたことがあります。

私の場合、ある人との関係性に、自分では変えることのできない大きな変化があったにもかかわらず、それを受け入れられず苦しい思いをしました。起きた状況を見ると、悲しくて、みじめに感じられて、その変化を受け入れられなかったのです。けれども、事実を冷静に観て、心のつらさを認めたとき、全てを受け入れることができ、それまでの苦しさから解放されました。

③は、現在、起きていない出来事への不安や、過去に起きた出来事への後悔、怒り、悲しみなどの感情にさいなまれる場合です。この場合は、気持ちを切り替えるために、心にしなやかさを取り戻すことが必要です。その出来事に関して起きた事実をよく見直し、自分の見方や評価の仕方に偏りがないかを検討します。

例えば、計画した企画が上手くいくかどうか不安でしょうがないとしたら、自分が現実に準備したことや、似たようなことで今までに対処できたことなど、不安な気持ちでなく、できた事実に焦点を当てます。また、20年後の自分なら、自分の親友なら、賢者なら、その問題に対して今の自分にどう声をかけるだろう?と想像することも役に立ちます。そして、このプロセスを繰り返すと、心がしなやかになっていきます。

どんな問題も、長い目で見ればいつかは解決していくもの。深刻になり過ぎず、シンプルに整理することでより適切な対処ができると、心に余裕が生まれ、状況を広い視野でとらえやすくなります。そして方針を立てたら、焦らずに時節を待つことが必要な場合もあります。そのように対処していけば、物事がすすむ流れへと無理なく入っていけるのではないでしょうか。