四季報そよかぜ 2017年10月号

音楽療法について

一仁会 理事長 岡田 純(医師・音楽療法士)

最近、日本でも音楽療法が広がりつつあり、音楽療法という言葉をお聞きになったことのある方も多いと思います

音楽療法というとどんなイメージを持っておられるでしょうか?CDショップで売っているヒーリング・ミュージックとかデイサービスで行っているリズム体操とかを思い浮かべる方も多いでしょう。

もちろんそれらも広い意味での音楽療法ですが、正確には

「音楽療法とは、音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、 心身の機能が低下しているところを改善させたり、機能の維持改善などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用す ること」

と定義されています。つまり、漠然と音楽を使って心や体を癒すだけではなく、治療目的に沿って専門的な知識の下に音楽を使うのが音楽療法です。

音楽療法の成立ち

現在病院等で治療として行われている近代的な意味での「音楽療法」は比較的歴史が浅く、20世紀はじめにアメリカで発祥しました。

日本ではさらに遅れて戦後になってから行われるようになり2001年に日本音楽療法学会が設立されるに至りました(初代理事長は先日無くなられた日野原 重明先生が務められました)。

現在、「音楽療法」は裾野が広がり、多くの医療や介護の現場において取り入れられるようになってきています。

音楽療法によるリハビリ効果

当院においても、医師であり音楽療法士でもある理事長と、非常勤の音楽療法士・谷口奈緒美を中心に、他の医療職の協力を得ながら音楽療法を取り入れたリハビリに取り組み始めました。

当院で行っている音楽療法は、神経学的音楽療法と呼ばれるものが中心です。神経学的音楽療法はコロラド州立大学のタウト博士が提唱した、神経疾患の機能障害に対し、音楽を用いてアプローチする方法で、「パーキンソン病に対して効果あり」と報告している論文が数多く発表されています。

日本神経学会が作成している『パーキンソン病治療ガイドライン』にも、パーキンソン病患者さんの身体機能改善に「音楽療法を試みるとよい」と書かれています。理事長も谷口音楽療法士も神経学的音楽療法の第一人者である元京都大学教授山根寛先生(医学博士・作業療法士)や、山根先生の教室で神経学的音楽療法を研究されていた、阿比留睦美先生(人間健康科学博士・音楽療法士)にご指導いただいております。

当院の障碍者病棟では、パーキンソン病をはじめとする多くの神経難病患者さんが入院されていますが、数年前から適応があると考えられる患者さんのリハビリに音楽療法を取り入れ始めており、効果も確認出来ております。

その成果を学会や研究会でも発表させていただいております。今後適応があれば、パーキンソン病を含めた神経難病患者さんのみならず、脳卒中患者さんや認知症患者さんのリハビリにも音楽療法を取り入れていきたいと考えております。

また、外来にて音楽療法の自由診療を開始しております。6月から毎月第2第4火曜日の午前中に、非常勤の音楽療法士・谷口奈緒美が担当させていただいております。ただし、自由診療ですので、同日に保険診療を受けていただくことはできません。ご興味のある方は当院スタッフまでお問い合わせください。

第6回「両忘」と「中道」

◇心療内科 土井麻里 医師 連載

紅葉が楽しみな季節となりました。季節とともに移り変わる木々の色。新緑の緑も、紅葉の赤も、どちらも美しく、比較するのは難しいことでしょう。何も考えずに、その時々のありのままの自然をただ見る、それだけで心が洗われる気がします。

みなさんは、「両忘(りょうぼう)」という言葉をご存知でしょうか。両忘とは、禅の言葉で、陰・陽、好き・嫌い、善い・悪い、など、物事を相対する二つに分けることを忘れ去った境地を意味します。

私たちの心には、出来事、人間関係、感情など、何事も二つにわけて判断する習性が染みついています。多くの場合、一方を肯定的(良い)、一方を否定的(劣る)に分け、否定的なことに対して、正そうとしがちです。けれども、思うように正せない場合、心の中に葛藤がおき、苦しみが始まります。例えば、誰か・何かに対して嫌な気持ちになった時には、気づかないうちに、自分が正しく相手が間違っている、という判断が起きており、自分の正しさが絶対だと思い込めば、相手を責め、大きな不満につながっていきます。

けれども、私たちが絶対に正しいと判断している基準は、それまでの個人の体験や教育によるもので、一人一人異なっています。

また、ほとんどの人が共通して正しいと思っている判断も、必ずしも絶対とはいえません。例えば、上下というとき、空のことを上、地面を下ととらえて考えていますが、ロケットで宇宙空間にでたら、上下はどうなるでしょう?あいまいになってきますよね。

判断することは生活をしていく上で必要なものですが、そこにとらわれると、ものごとの全体や本質をとらえることが難しくなることを、両忘という言葉は伝えています。そして、両極にあることも、起きている現象の見え方の違いととらえ、両方が起きている空間や状況を、より全体的、より感覚的に気づいている在りようが、二つを分けることを忘れ去った境地、つまり、両忘の境地なのだと思います。そして、この境地に至れば、陰陽の二元的な世界でなく、ただ一つの世界がひろがっていくのかもしれません。

私が初めて「両忘」という言葉を聴いた時、「中道(ちゅうどう)」という言葉が心に浮かびました。お釈迦様が説かれた中道という言葉の意味は、相対するものを比較して、その中間・中立をとること、ともいえます。けれども、その時、両方にこだわる心から離れること、つまり両忘と同じ境地のことだと気づいたのです。そう気づくと、「起きていること、存在しているもの全ては、等しく尊いんだ。」と思えて、温かい気持ちに包まれ、涙が流れました。

とはいえ、いつもそんな感覚でいれれば楽なのですが、二つに分けて物を見る心の動きは、私たちの奥深くに根付いていて、自分の発している言葉や心の動きを、よく振り返ってみた時に初めて、気づかないうちにその心の動きにとらわれていたことに気づかされます。

では、両忘の感覚を味わうにはどうしたらよいのでしょう? まずは、ちょっと立ち止まって、心の静けさを味わう時間を持つこと、そして、判断や思考が起きる前の空白の一瞬~気づきだけがある瞬間~を感じてみることが大切と言われています。普段の生活の中で、短時間、一瞬でもいいので心の静けさを味わい、静まった心の状態に戻る時間を繰り返し持つことがコツのように思います。

 

新入職員紹介

今回は、平成28年4月から29年5月までに新たに当院の仲間になった職員を紹介します。

①趣味 ②休日の過ごしかた ③10年後どんな自分になっていたい

看護師 西村 由希(にしむら ゆき)

①スポーツ観戦 ②疲れた体をリセット ③時々旅行をしながら、元気に働き続けたい

看護師 長谷部 絢(はせべ あや)

①読書、寺院巡り、珈琲店巡り ②趣味をして過ごしたり、お昼まで眠っています ③看護師として患者さんの役に立つ知識と技術をもっと身につけていきたいと思います。

看護師 東海 真衣(とうかい まい)

①お酒を飲むこと(特に日本酒)②友達と出かける、美味しいものを食べる③結婚、出産して幸せに生活していたい、看護師を続けていたい。

看護師 池口 香苗(いけぐち かなえ)

①ピラティス、カフェ巡り②おいしいものを食べながら友達とお喋り③やりがいを持っていきいき仕事をしながら結婚をしてプライベートも充実している。

事務員 岡本 真奈(おかもと まな)

①音楽、映画、ヨガ②子供と公園で遊んだり、お菓子作り③患者さん一人ひとりにあった、思いやりのある対応ができるようになり、受付の顔になれるよう頑張っていきたい。